2012年2月22日水曜日

それが起動しなかったときにヒップホップの歴史は、

インタビュー:インナー・サイエンス - Time Out Tokyo (タイムアウト東京)

『Elegant Confections』と題されたアルバムがある。そのサウンドは春の温かな日差しと優しい温風のような美しい電子音が重なり、そしてビートとグルーヴが柔らかく時を刻んでいく。トラックメイカー、西村尚美によるインナー・サイエンスが2011年のはじめにリリースしたこのアルバムは、リリースされた凍てつく東京の寒空よりも、最も気持ちの良い春という季節にこそ相当しいサウンドトラックなのではないだろうか。

音楽的な出自は、いわゆる1990年代の正統派ヒップホップにあるそうだが、想像力を働かせ、オリジナリティを加えることで、ついには現在のようなスタイルになったのだという。一時期のような勢いを失ったとはいえ、レコード街に行けば、世界でも有数のハードコアなNY産ヒップホップのアーカイヴと、世界中のラップトップから発せられるマニアックなエレクトロニカまでもが両方とも揃う東京の街ならではのサウンドではないだろうか。もちろん、そういった双方のシーンに本人がコミットしていたかどうかは別にしてだが。

ここ数年は自身の活動とともに、サウンドエンジニアとして多くのアンダーグラウンド系のアーティストから信頼を寄せられ、数多くの作品を手がけている。また、さらに別のベクトルでは、東京、お台場にある日本科学未来館のプラネタリウムのコンテンツ『BIRTHDAY』のサウンドトラックを手がけるなど、クラブミュージック系のアーティストとしてだけでなく、その活動は多岐に亘っている。

ヒップホップがルーツにあるということですが、そもそも、どういう道筋からヒップホップを好きになったんですか?

西村:まずは中学生ぐらいのとき。友だちがヒップホップを聴いてて、それでクリス・クロスとか2パックとかそういうのを聴いたんだけど、最初はあんまりはまらなくて。高校に入った頃、バンドはひとりでできないけど、ヒップホップはひとりでも向上していけるなと思って。それと、本当に聴いているうちにハマったとしか言いようがないですね。

自分で作る、というような欲求が強いんですか?

西村:両親共に音楽に携わっていて、音楽を耳にしたり、楽器を触ったりというのは当たり前のようにあったんですよね。その流れから「音楽を作ろう」みたいな気持ちは普通にあったというか。

そして自然と、機材を買い集めていったと。

西村:最初はラップをしていたんですよ。単純にDJ機材が高かったとか、思い起こせば色々と理由もあると思うんですけど、ラップをはじめて、そのラップのビートを自分で作りたくなったところから、ビートメイクがはじまって。

それは1990年代の終わりぐらい?

西村:そうですね。あれ2000年ジャスト……でも、その頃にはもう出してるからやっぱり90年代後半かな。


スウェーデンで飲んで音楽を聴くために使用することができます

初期の頃はブレイクビーツが基本にあったと思うんですが、いまの音につながる話をすると、いまループ感はあれど、いわゆるサンプリング主体のヒップホップの音から逸脱していくじゃないですか?BPM的にハウスっぽいテンポだったり。その転機は?

西村:具体的にココというのはないんですよ。例えば、ライブパフォーマンスをし始めたり、それはableton Live(DAWソフトウェア)の登場も大きかったり、そういう意味で遊んでいる機材がハードウェアからソフトウェアに変化していく過程でできることが増えていった、というのも影響してるのかなと思います。

サンプラーだけだったところから、自由度が増えたと。

西村:そういう部分はあると思います。とはいえ、最初の頃の作品で、BPMが120いかないくらいの速い曲もあったし、ファーストアルバムにも4つ打ちの曲のつもりで入れてるのに、4つ打ちにきこえてないっていうのもあったり。そのへんがちゃんとできるようになったんじゃないですかね(笑)。

リスナーとしては、いろいろ聴いてました?

西村:いやぁ、金がないんであんまり聴けてないんですよね。

2000年にエレクトロニカ周辺のビートシーンみたいなものってあったじゃないですか。端から見てるとそこから出て来たと思われてる部分ってあると思うんですけど。

西村:もしかしたらこう言うと語弊があるかもしれないですけど、僕自身はコミットできてなかったと感じているというか。それはシーンに対しても、リスナーとしても。というのは根本的な問題として、金がないんで。金がないときにと例えばオウテカとかエイフェックスとか、とにかくそういうビックネームのタイトルっていうのはなかなか買えないじゃないですか。だからまずリスナーとしてそのシーンにいた感じはあまりしない。

誰か持っているから借りればいい、というような?

西村:いや借りる友だちもいなかった(笑)。要するに、ビックネームだからいいに違いない、みたいな。だからあんまりよくわかってなかったですよね。多分、圧倒的に聴いてなくて、例えば話題になったら、その音を勝手に考えてるんですよ。文字情報で見た音を(笑)。

妄想、ですか?

西村:そう、妄想の部分も大きかったとだ思います。ヒップホップは歴史も含めて系統立てて聴けてると思うんですけど。でも、テクノとかハウスとかエレクトロニクス的な音楽は、ヒップホップ以外として一列になってるっていうか。ヒップホップとそれ以外(笑)。今はさすがにそこまで偏ってはないと思いたいですけどね。


どのくらいの新しいフレンチホルンのコストがか?

やはりヒップホップが中心にあるわけですね。話は変わりますが、ここ数年の活動で、日本科学未来館のサントラの仕事とか、あとはご自身でアナログ用のレーベルを立ち上げたり、それに近いアーティストのサウンドエンジニアリングとしての仕事と、活動が多様になってきていますよね。まずレーベルはなぜご自身で?

西村:単純にアナログ盤も含めて作品をさらっと出せるような環境をキープしておきたかったのと、 流通も含めて色々なことに対応できるようにレーベルという形にしておいたというか。

サントラ仕事などからのフィードバックはありましたか?

西村:まったくない、ということはないでしょうね。それをきっかけに名前を知ってくれた人もいらっしゃるでしょうし。サントラうんぬんというよりも、その音をつける仕事ができて、それが未来館で上映されているということ自体がより強い影響があると思いますけどね。

自分というよりも環境や状況が変わったと。

西村:サントラはその環境のために作ったものをCD化してるということなので、あくまでも本体はそちらにあると言うか。

新しい作品『Elegant Confections』に関してですが、いわゆるサンプリング自体は減ったと思うんですけど、音の組み合わせ方みたいな部分はサンプリング的な音のループ感とか重ね方が残っているのかなと思って。

西村:それはわりと今回の作品のインタビューなんかを通して、いろいろな質問を受けて自分も気づいた部分ではあるんですけど。多分、そうなんですよ。演奏をしていくことを積み重ねていくというよりも、演奏のひらめきの部分だけを抽出してそれを積み重ねていく、という意識が強いですね。なので、これはサンプラーの限られた時間のやり口なんですよね。そのまま。

その感覚が残ってると。

西村:だから俺は演奏したいわけじゃない、っていうのがあるんだと思う。自分の好きな音を集めて、それを思い通りに動かしたいというか。

ご自身が思う制作面で変化した部分、というのはどこですか?

西村:手法的な部分で言えば、このアルバムに関して言うと、やっぱりレコードサンプリングの割合が減ったというのはあって。

曲を作る基本姿勢とか概念みたいなものは変わってないと。

西村:いまのところ変わってるようには思えないですね。

制作期間はどのくらいですか?


ちょっとは、彼らはあまりにも私を!呼び出すために使用されるものthatsの!

西村:前のアルバムが終わってからすぐなんで、一番初めに作った曲からしたら、もう3年ぐらいかかってますね。アナログを出してから、アルバムっていう形にまとめたいなって思ってて。プロセスとしてはアルバム1枚を仕上げるため、今回は4曲、4曲、4曲ってアナログ3枚用に集中して作ったものを最後にアルバムという形にまとめつつ、補足が欲しければ補足の楽曲を作っていくという感じですね。

アルバムのテーマとかコンセプトみたいなものがあったわけじゃなく、いま作りたいものを作ってまとめたと。

西村:結局、それができたのも自分のプライベートなレーベルがあって、勝手なときに出せるような形をとっていたからだと思ってて。

今回はディスク2にアンビエントバージョンを付けてますが。

西村:単純に自分でビートを抜いた状態で聴いたときに聴ける部分もあったというか、これはこれで、構成なりを少し変えれば成立してると思って。でも、ほとんどリミックスみたいになってしまってるのもあるんですけど。2曲くらいは単純にビートを抜いたものに近い状態で。あと、こういうものを作ったのは、自分が聴いてみたかったというのと、ドラムの音量が大きめの音楽にあって、それが抜かれたときに他の音がどういう動きをしているのかとか、そういうものをより楽しんでもらえたりするかなと思ったり。でも、やっぱりいちばんは自分が聴きいてみたかったというところかな。

ビートメイカーとして出発してるのにビートを抜くっておもしろいですよね。発想的にそこまできたのかなと(笑)。

西村:なんなんだろうな。なんでも思いつきを形にしていくのは楽しいから、実はそんなに考えてなかったりして。言われてみれば「確かに」って思うし(笑)。ビートメイカーっていうくくりの判断がおかしくなるくらい、謎の動きをしている方がおもしろいかなと。

音を作るのに最も留意している点は?

西村:やっぱり自分の嫌いな音が入ってるかどうかっていうか、そこはどんどん外して行っちゃうから、気になってるんだろうなって思います。

ここ数年の作品って、どこか良いライトな感覚があるというか、ダークな感じはないですよね。

西村:元はどうだったんだろう……いま自分の楽曲に対して、それはいらないのかなって感じかな。昔の楽曲はもう少しダークというか、トーンが暗い曲もあったはずだし、いまの気分としてはそうなんじゃないかな。

いまリリースしているアルバムがCDとしてリリースされるものの最後になる可能性ってあるじゃないですか?そういうコトって考えます?


西村:もちろん考えたからこそ、2枚組にしたというか。1枚ずつ出すというのも方法としてはあると思うんですけど、2枚のパッケージで手に取りやすい形で、というのは作品ができた後に、紆余曲折を経てなったんです。でもCDは物販という形があるので少ないロットでも欲しいなって思いますね。その辺の単価は下がってきてるので、バランスをとりつつというのがあると思いますけど。

タイトルの「Elegant Confections」というのは?

西村:アナログの1枚目が「Elegant Confection EP」ってタイトルだったのがまずあって、そこからはじまった流れの集約だというのと、タイトル的にもメッセージみたいなものを楽曲に込めてるわけじゃないので、買ってくれた人がそれぞれ思い入れを持ってくれれば良いと思って。だからそういう意味も含めて、意味がそこで強調されないというところでタイトルを選んでたりするところもあるので。

いま海外も含めて気になってるアーティストやシーンなどはありますか?

西村:たくさんのリリースがあるし面白みの方向は一カ所には向いてないから、それらを色々楽しんでいる感じですかね。常に気になっている自分のフェイバリットアーティストは国内外問わずもちろんいますよ。

東京のなかで気になっているカルチャーとかシーンは?

西村:みんなそれぞれの面白さがあるから、飛び抜けて誰っていう言及は避けたいですね。

東京で魅力的なところってどこですか?

西村:最終的にはそこで開かれているパーティによりけりっていうのはあるんですけど、大バコのブッキングももちろん面白いんですし、落合にある『SOUP』とか、インディペンデントに自分たちでやってる小さいところだけど、音が良いみたいな場所。そういうところも見逃せないですね。


『Elegant Confections』
Inner Science
発売中
価格:2450円
オフィシャルサイト:www.masuminishimura.com/

また自身のレーベル〈Plain Music〉からは、『Elegant Confections』収録曲から、未アナログ化の計3曲をカップリングした最新12インチ・アナログ・シングル『End of the beginning e.p.』がリリースされる予定(3月下旬~4月上旬リリース予定)。Inner Scienceが音楽制作を担当した立体視プラネタリウム作品「バースデイ ~宇宙とわたしをつなぐもの~」は日本科学未来館のドームシアターにて。

出演情報
4月16日(土) 『Sound of the Next�/p>

テキスト 河村祐介



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